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【メルマガ第3回】 「2001年宇宙の旅」の冒頭音楽

「2001年宇宙の旅」の冒頭音楽

櫻井 直樹


「2001年宇宙の旅」は、1968年に公開されたスタンレー・キューブリック監督による名作です。この映画の冒頭で流れる曲は、リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が1896年32歳のときに作曲した「ツァラストゥストラはかく語りき」です。その出だしは印象的な「ド・ド・ソ・ド・ミ・・」です。これは弦を弾いたときに必然的に出る整数倍音列そのものです。1倍音(基音)がドの場合、2倍音は1オクターブ上のド、3倍音はソ、4倍音は2オクターブ上のド、5倍音はミに相当します。現在のドレミは、この倍音列と深い関係にあります。この倍音列からドレミが出来たといってもいいでしょう。 この曲が作曲された19世紀の末は、ハイドン、モーツアルトによってはじまり、ベートーベンにより完成された交響曲がすでにあり、その次の音楽が求められていた時代といわれています。リヒャルト・シュトラウスは若い頃は新しい革新的な音楽を作ろうとしたようです。不協和音、多調などにも取り組みました。しかし、それの限界も知ったのではないでしょうか。つまり、ドレミという音階を使っている限り、そこから生まれる音楽には、もはや新しいものは生まれないと。そこで、象徴的に「ツァラストゥストラはかく語りき」の冒頭で、整数倍音を用いたのではないかと思います。 リヒャルト・シュトラウス以降、新しい音楽を模索した作曲家は、シェーンベルク(1874-1951)、シュトックハウゼン(1928-2007)、ブーレーズ(1925-2016)、ノーノ(1924-1990)、ケージ(1912-1992)などがいますが、結局新しい音楽理論(和声理論を含む)が出来ず、ケージはついに4’ 33’’ (4分33秒)を1952年に作曲します。これは、“ピアニストが椅子に座り、鍵盤蓋を上げて、4分33秒じっと音を鳴らさずに座っている曲である”、と理解しているヒトが多いかもしれませんが、実はそれだけではありません。ケージはコンサート会場の扉を開け、演奏会場の中だけではなく外の音も、聴衆が聞こえるようにした。つまりケージは、弦から出てくる整数倍音を含む音を使わずに、自然の音を聴衆に聞かせようとしたのではないかと私は考えます。 現代音楽が聴衆に受け入れられず、音楽会はいつも19世紀までのいわゆるクラシック音楽を演奏者を替えて繰り返し、その一方ではノイズミュージックが生まれました。ノイズミュージックは整数倍音から離れようとする運動のように思われます。エレキギターの音も、歪を加えることで、整数倍音から離れようとしているように思えてなりません。 つまり、新しい音楽は、自然界に元々ある、非整数倍音の音から生まれるのではないでしょうか。

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