
円盤音階理論
音の高さと音色
現在の楽器の主流は弦楽器と管楽器ですが,どちらも一次元の弦あるいは気柱が振動源で,弦長あるいは気柱長を波長とする基本波 (基音) と,その 1/2, 1/3, 1/4, 1/5... を波長とする高調波 (倍音,高次音) が発生します.図は両端を固定した弦の振動で,その右側は実際のバイオリンのスペクトルです.基本周波数,その2倍,3倍,4倍,...と,線が等間隔に並んでいます.「音色」はこれら高次音の成分比によって決まります.

一次元の弦・菅の振動計算には三角関数が登場しますが,例えば二次元の円盤ではベッセル関数が登場します.どこも固定されていない,自由に振動できる円盤の計算に用いる式はこれだけです.

Jn(λ), In(λ)はそれぞれλを変数とするn次のベッセル関数と変形ベッセル関数,ν はポアソン比,Eはヤング率,h と a は円板の厚みと半径,ρ は材質の面積密度です.最初の方程式で λ を求めると,第3式から角周波数 ω が定まります.
円盤の材質と厚みが同じであれば,音の高さ すなわち角周波数 ω は半径 a に比例します.
第1式の n=0,1,2,... に応じてそれぞれ方程式があり,各 n に対する方程式を満たす λ は無数に存在します.これらを小さい方から m=0,1,2,...と番号付けします.すなわち,方程式の解を (n,m) という非負整数のペアで特徴付けます.
円盤の振動のモード (姿態) には2種類あり,それぞれをピザモード,ドーナツモードと言います.実際の振動は一般にはふたつのモードの混合モードになります.
ピザモードでは円周方向に凹凸ができます.下のように,出っ張った部分が次の瞬間に凹むことを繰り返し,振動が生じます.いちばん単純なピザモードは半円に分割したときです.図は3本の直系で分割したときの振動,すなわち (3,0) モードのイメージです.


これに対してドーナツモードは円盤を同心円で分割します.その結果,半径方向に凹凸ができます.図は (0,3) モードのイメージです.


どちらのモードにも,振動しない部分があり,ピザモードでは直線,ドーナツモードでは同心円です.これらの線 (直線または円周) を節線と言います.先ほどの n,m は,実はピザモード,ドーナツモードにおけるそれぞれの節線の数を表しています.
このふたつのモードが混じり合った,ミックスモードも起こります.図は (3,1) モードのイメージです.


音を出しているスピーカーの上に円盤に粉体を撒くと,粉体は振動しない部分 (節) に集まり,クラドニ・パターンを生じます.スピーカーから出る音の高さを変えると,パターンも変化します.下の動画はミックス・モード (上) およびドーナツ・モード (下) のクラドニ・パターンです.
