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【メルマガ第14回】日本人の音感覚(2)


櫻井 直樹


前回の「日本人の音感覚(1)」で、伝統的な日本の音楽はドレミの音階ではなかった、ということをお話ししました。それではどのようなものだったのでしょう?今回は、箏(こと)の音階を使って説明してみます。

一般的な箏には弦が13本あり、その調弦(弦の音律を整えること)の方法は何種類もあります。例として、江戸時代前期に八橋検校によって考案されたといわれる「平調子」と、「雲井調子」をあげてみます。ここでは皆さんに馴染みのある西洋音楽の音名で話を進めます。“ドレミの音階ではないこと“を“ドレミで説明する“ジレンマがありますが、そこには少し目をつぶっていただいて、読んでみてください。

箏は相対的な音の高さで調弦されるので、ここでは 一(1弦)の音を レ の音としたときの音名で表しています。それぞれのパターンで調弦すると、下の表のような音階になります。併せて、中国から伝わった「律」と「呂」を示します。


「平調子」も「雲井調子」も、一と五は同じ レ の音で、七は二より1オクターブ高い音です。そして、八は三より、九は四より…と12番目の弦まで、それぞれ1オクターブ高い音になります。つまり、2弦から7弦までが、5つの音で構成されている1オクターブの音階です。7音で構成されるドレミの音階とは異なる、大きな特徴です。 上の表のように音名で表記すると複雑なので、ここでは音程に注目して考えてみましょう。ピアノの鍵盤で隣り合う2つの音は「半音」です。 音名で言うと、「ド と ド♯」 や 「ミ と ファ」、「シ♭ と シ」などが半音です。


半音を 1 で表すと、1オクターブは 12 で表すことができます。これを「音程表記法」と呼ぶことにします。音程表記法を使って、調弦による音階を表にまとめました。

どうでしょう? 音名で表していたときよりも、分かりやすく見えてきませんか? これを見ると、「箏の音階は5音階である」こと以外に、次のような特徴があることに気づきます。 音程表記法では、「平調子」は、2・1・4 で始まり、「雲井調子」は 1・4・2 で始まります。これらの調弦では、3 は見られません。また、中国から伝わった「律」と「呂」には 1と4 はありません。八橋検校が作ったとされる「平調子」は一般大衆に大ブームを巻き起こし、箏が広まるきっかけになったとも言われています。「平調子」にある 1と4 の音間隔が、当時の日本人の感覚にピタリと合ったのではないでしょうか。 さて、「平調子」にみられる 2・1・4 の音程を、ドの音から始めてみると、 2   1   4     ド   レ   ミ♭ ソ となります。下線を引いた音の並びは、ジャズでよく知られるブルーノート(3番目の音を半音下げる)の音階です。ブルーノートはアメリカの黒人音楽から生まれ、憂鬱で物悲しさを帯びています。また、スペインの作曲家エンリケ・グラナドスの「スペイン舞曲第2番/第5番」は、(レ・ミ・ファ・ラ)あるいは(ミ・ファ♯・ソ・シ)で始まり、この 2・1・4 の音程が使われています。日本人にジャズやフラメンコにはまる人が多いのは、箏の音階に近い音間隔を微妙に感じ取る「音感覚」をもっているからかもしれません。

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